格安自転車には、ペダルが踏んだ力がどこかに逃げていって、きちんと前に進む力となっていないような感覚がある。(格安自転車を使うことで失われる3つの感覚:松浦晋也「人と技術と情報の界面を探る」)

 自転車というのは人体と密着して使用する道具だ。微妙なところまで感じ分けることができる人間の感覚と、切り離すことができない。このため自転車は、数ある機械の中でも比較的簡単な構造をしているにもかかわらず、設計と製造には高性能の材料と微妙なノウハウ、そして高い加工技術が必要である。

 これら技術は基本的にノウハウであって、一朝一夕で習得することができるものではない。

 しかし、その一方で、部品点数が少ないことから、「一応自転車の形をしていて、一応自転車の機能を持つ製品」ならば、比較的簡単に作ることができる。中国製の格安自転車は、まさにこれに相当した。

 その差は、きちんと作られた自転車と乗り比べるとすぐに分かる。例えばママチャリであっても、日本メーカーの製品は安くても3万円台後半ぐらい、通常は5万円ぐらいする(日本メーカーも今ではそのほとんどが設計専門で、主に台湾のメーカーに生産委託しているのだが)。
 これらと量販店で販売している1万円以下の格安自転車を乗り比べると、格安自転車には、ペダルが踏んだ力がどこかに逃げていって、きちんと前に進む力となっていないような感覚がある。1つ1つの部品の加工精度の低さ、材質の悪さ、ノウハウを欠いた不適切な設計といったものが積み重なって、「どうも前にすっと進んでくれない感覚」を生み出しているのである。

 それだけならともかく、一般論として格安自転車は壊れやすい傾向がある。はなはだしい場合には、走行中にフレームが折れるなどという危険な事故も発生している。「安いんだから、壊れたらまた買えばいいよ」と思う人もいるかもしれないが、怪我をしたら元も子もない。